砂山の砂に腹這ひ 初恋の いたみを遠くおもひ出づる日
こころよく我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ
あたらしき心もとめて名も知らぬ 街など今日もさまよひて来ぬ
やはらかに積もれる雪に 熱てる頬を埋むるごとき 恋してみたし
師も友も知らて責めにき謎に似る わが学業のおこたりの因(もと)
神有りと言ひ張る友を説きふせし かの道傍の栗の樹の下(もと)
そのかみの愛読の書よ 大方は今は流行らずになりにけるかな
かぎりなき智識の欲に燃ゆる眼を 姉は傷みき ひと恋ふるかと
蘇峰の書を我に薦めし友早く 校(こう)を退(しりぞ)きぬ まづしさのため
やはらかに柳あをめる北上の 岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに
赤紙の表紙手擦れし国禁の 書(ふみ)を行李の底にさがす日
売ることを差し止められし本の著者に 路にて会へる秋の朝かな
(恋とかの漢字は実際は旧字体です。ごめんなさい)
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