5-1-2

  近衛文麿の論文を検証する(No.26〜29)

                  

 ◆雑誌「キング」(大衆向けの雑誌) 昭和八年二月号 


     「世界の現状を改造せよ」 

     =偽善的平和論を排撃す=


                          
          貴族院副議長 公爵 ・ 近衛文麿 

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以下、本論文中の各項目ごとに一部原文を抜粋した部分と概略を列記します。


(原文)
日本は満州問題勃発以来国際関係に於いて非常なる難局に立って居る。
満州に於ける日本の行動は既にしばしば国際連盟の問題となり又現になりつつある。・・・

(概略)
満州事変で世界から非難されつつあるが日本の満州での行動が必要である説明と
欧米の平和論者に対して本当の世界平和の達成のためにはという問いかけをしたい。

世界大戦の犠牲

恐るべきものは戦争である。かの世界大戦に於いては一千万人の人命と、数千億の財貨を
犠牲にしたといはれている。而もその影響は今なお世界を苦しめつつあるのである。・・・

聨合国は独逸に対して1400億マークの賠償金(第二次大戦の遠因となる)を課し
結果大変なインフレになり、ヒットラー出現、第2次大戦の引き金になった。
聨合国は米国から220億ドルの債務を負ったため世界各国の財政経済の基礎が覆されて
世界大不況の原因となっている。将来の戦争では毒ガスバクテリアなどによって一般住民の
大衆的殺戮となるだろう。と戦争の悲惨さを述べている。

感傷的平和論

ここに於いて、何とかして此の戦争と言ふものを人類の社会から絶滅してしまはうと言ふ要求の
起こって来る事は誠に当然である。・・・

平和主義者に対しては敬意を表するが、冷静に考えてみると、戦争の原因が必ずあるので
原因を除くことをせずに悲惨だからやめようというのは感傷的で新の平和主義ではない。

戦争の原因

然らば戦争の原因となるべき事柄は何であるか、学者は、戦争の原因として、
(1)領土の極めて不公平なる分配 (3ページ目の列国人口密度一覧表参照)
(2)人種的言語的統一を破壊する政治的境界線の存在(国境の問題)
(3)重要原料の偏在等を挙げて居る。
一言以て之を蔽へば、国際間に不合理なる状態の存在して居ると言ふことである。・・・

狭くて発展しているのに狭い領土しかない国や、広くて人口の少ない国もある。
例えば豪州の面積は日本の20倍以上で、人口はわずか東京と同じ600万人だけしかいない。
豪州は門戸を閉ざして日本人一人も移住することを許さないという不合理な状態。

下村博士の比喩

下村博士は、国際間の此の不合理なる状態を比喩を以て説いておられる。
曰く、・・・中略・・・個人に生存権があれば、国家にも生存権がある。・・・

劇場の枡席定員四名のところに七、八名ぎゅうぎゅう詰めのことろもあれば
一人で四枡五枡占領しているのもあり、今の国際間の状態がこれである。
しかし人口が増えた国民が移民しようとしても多くの国は拒絶している。
これは日本だけの問題でなくこれが解決しなければ世界不安は永久に残る。
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偽善的平和論

歴史をひもといて世界各国の領土の消長と、民旅の興亡の跡を見れば、
今日の地球上に於ける国家民族の分布状態と言ふものは、決して合理的のものでも
無ければ、確定的のものでもない事が能くわかるのである。・・・中略・・・

平和主義は今現在の不合理な状況に満足している国にとって好都合。
世界大戦は現状維持派が平和主義となり、現状打破派が侵略主義となつただけで 
正義と暴力の争いというのは偽善である。
先進国は先に理不尽に天然資源の豊富な土地を手に入れておいて平和主義を唱え
現状を打破しようとする国に対して人道正義の敵であるとして圧迫するのは勝手である。

平和の二条件

私はいふ、真の平和は、不合理なる国際間の状態を調節改善することにより
始めて達成せらるゝも、戦争は其時に於いて始めて絶滅することが出来るのである。・・・

不合理な国際間の状態により第二第三の世界大戦が起こらないとはいえない。
この不合理を解決するには、この二つの原則が認められなければならないと思う。
(1)経済交通の自由   (2)移民の自由


もしも、各国が各々其関税の障壁を撤廃し、天然資源が各国に向かって
開放せられることとなり、又凡ての国民が其人種の如何を問はず、如何なる国へも
移住が出来て、そこで平等の待遇を受けると言ふ事になれば、必ずしも、今日の
地球上における分布の状態を変へる事無くとも、大いに現在の不合理なる状態を
緩和する事が出来る訳である。
     ↓
先進国が容認しないことが原因であると言っている。ボーダーレス社会の理想。

私の所見

私も亦、大正7年11月欧州大戦漸く結末を告げて、休戦協定の成立せる事を耳にするや、
同年12月15日発行「日本及日本人」誌上に「英米本位の平和主義を排す」と題する
一文を掲げた。・・・

国際連盟に加入するに当たり、日本として主張すべき先決問題は経済的帝国主義の排斥と、
黄白人の無差別待遇である。
講和会議で英米の経済的帝国主義を制圧しなければ都合よく世界に君臨されるだろう。
経済的帝国主義を排して、植民地を解放し、市場としても、天然資源の供給地としても
各国平等になるようにするべき。

巴里会議と其後の情勢

其如く、我々は多大の期待を持って希望に燃えつゝ巴里に向つたのである。・・・

列国の代表は日本の主張には耳を傾けず失望する。世界には国家主義が台頭し
真実の国際主義は見られない。
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今日を生きん為に

世界の大勢斯の如しとは云へ、我々は決して人類永遠の理想である所の達成に向つての
努力を捨てる可きではない。我々は真の平和を達成せんが為今後国際の舞台に立ちては
常に経済交通の自由と移民の自由というふ此二つの原則を旗印として進むべきである。・・・

しかし年々百万人近く増えている人口により経済的に苦しくなっているので
仕方なく生きるため満蒙での行動に出たが世界はいつまでたっても不公平を正さないで
日本を非難している。しかし本当の平和の邪魔をしているのは彼らである。

     交通の自由、移民の自由は間違いではないと思うが
     「植民地支配を平等にさせてほしい」という主旨であり
     被支配側の視点がなく植民地を解放しようとは全然言ってない。
     当時の日本人からは共感を呼んだと思うが、支配される側の
     視点がないこの論文は朝鮮中国の反感を買った。
     近衛は平和主義者で軍部に利用されたという声もあるが、
     決してそうではなく無責任な人物であったと思う。



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